ここでは、弊社常務が品質マネジメントシステム(ISO9001:2000)の管理責任者となり、
ISO9001認証取得へ向けての活動に携わり、苦闘し努力する奮闘記を連載で綴ります。


※この記事は、当時の様子をほぼノンフィクションで掲載しております。現在、財団法人日本適合性認定
協会(JAB)の規定変更等により、審査スケジュール及び審査内容が本記述と異なっている場合があります。
また、審査登録機関によって内容が異なる場合があります。
なお、この記事はあくまで参考であり、ISO9001認証取得への保証及び認証取得方法を推奨するものでは
ありません。さらに、特定の団体及び個人の利益を目的としたものではありません。
                         

ISO9001への道                            常務取締役 工事部長     斎藤 芳樹

                                       

その1:話の初めは…

私がISO9001という言葉を頻繁に耳にするようになったのは、2001年に入ってからだったろうか。

それまで製造業中心の規格であろうと理解していた私は、ISO9001が我々建設業(電設業)にも浸透し始めている事を実感するようになっていた。

当時は、いずれスタンダードになるであろう規格に対し、高嶺の花、大企業対象、容易ではない取得活動、経済的に大きな負担、などが頭を過ぎっていた事を憶えている。

だが、まさか、間もなく自分が当事者になろうとは思ってもみなかったのである。


その2:きっかけ

ISO9001を少しずつ知るにつれて、そのシステムは我が社に必要な規格であると痛感するようになる。それは私が10年以上前から、明確な規定を制定する必要性、責任と権限の明確化、手順の確立、顧客満足の向上、を切望し続けていたのだから。

だが、あちこちで大手企業ISO9001取得の報が聞かれる中、我が社は関係する事無く、時は過ぎていった。

そんな折、業務提携している県外の電設業者(社員数70名程度)からISO9001認証取得間近であると打ち明けられた。それは2001年の終わり頃であったと記憶しているが、いよいよ身近に迫ってきたかという実感が強くなった。

ただし、建設業で取得するのはまだ、大規模中規模の企業が主体で、我が社のような小さい会社には取得及び維持に対する負担が大きく、特に電設業ではまだ必要性が認められていない事もあって、現実的では無いな、時期尚早だな、と私は考えていた。

ところが、そんな事は言っていられない事態が頻発したのである。


その3:不祥事@

以前から社内でも、規定が曖昧である事、責任と権限が明確でない事、などから時折トラブルが発生する事があり、頭を痛めていた。

ある日、資格を持たない作業員が、曖昧な指示を受けて不安全行動と手順無視により備品を損傷させる事態が発生した。私がその場で指摘したのだが、他にやり方が無い、他の方法では手間と費用がかかる、いちいちうるさい、などと反発を受けた。

結局、一部の作業員を資格取得の為の講習に行かせる事、無理な作業は慎む事、でその場は収まったのだが、同種の事態が再発する事が懸念された。


その4:不祥事A

それからしばらくして、我が社が1年程前に施工した住宅で制御盤の端子が過熱する事態が発生した。

熟練した作業員が施工しているので締付不良は考えにくかったが、メーカー側は施工ミスと断定した為、当社側が謝罪する事で施主及び建築会社と最終的に決着した。

施主と建築会社からは好意的に評価していただいたが、我が社の正当性を実証するものが何も無く、不満が残る一件であった。

この件は、発生から決着まで時間を要したが、その間にまた、今度は決定的な不祥事に見舞われる事になる。


その5:不祥事B

2001年12月の事、請け負った工事の作業中、当社側(私が当事者だったのだが)の不注意により周辺住民から発注者へ苦情があり、それが発注者の上層部にまで伝わる騒ぎとなった。これにより、関係者各位及び担当者には大変迷惑をかける結果となってしまった。

我が社の信用に係る不祥事であり、私はこの事態を重く見て信頼回復が急務と判断した。そしてこれを機に、ISO9001認証取得への取組みが始まっていく事となる。

この、ISO9001認証取得への決意をした不祥事、発注者及びその担当者とは、いずれ奇妙な因縁で繋がる事となるのだが・・・。

そして年が明けて2002年になった頃から、ISO9001に対する情報収集と取得への準備を始める事となるのである。


その6:始まりへの苦難

とにかく、何もかもが手探りの状態である。他社や関係者にそれとなく訊いてみても、大変だ、苦労する、費用がかかる、などとしか反応が無く、具体的な事が全く聞かれない。仕方がないのでとりあえず参考書の類を購入し、独学で少しずつ勉強していく事にした。

だが一番の問題は費用面であった。

ただでさえ不景気の真っ只中、業績不振、赤字転落、という状況で社内を説得しなければならない。それが悩みの種である。

インターネットや書籍を見ても、取得審査費用100万〜300万円、コンサルタント費用300万〜1500万円、とピンキリで実に幅広く、我が社の現状では一体いくら必要なのかさっぱりわからない状態であった。


その7:説得への苦悩の日々

とりあえずは会社側を説得しなければならない。

私も役員ではあるが、代表権があり経営者であるのはもちろん社長である。さらに経費は、経理の担当責任者である専務の許可がもらえなければ捻出できない。

いくらかかるのかわからないのでは、経理側がウンと言うわけも無く、それとなく打診して反応を探る事にした。しかし案の定難色を示され、具体的な費用と必要性の是非を証明しなければ許可の仕様が無い、という事になった。

専務に通らない話が社長に通る理由も無く、どうやって社長を説得しようか考えているうちに時間だけが過ぎていった。


その8:勝手に話を進めるが…

いつまでも考えあぐねていても事は進まないのである。

すぐに取得活動をするか、しないかは別として、準備はしなければならない。

時間が空いたときに少しずつ規定の骨子を作成し(思いついた事を書き留めていっただけだが)、2002年1月から定例とした工事部内会議で、ISO9001について取得の意向であり体制作りを準備していく事を発表した。

もちろん工事部内で発表しただけで、決定しているわけでも無く、ISO9001がどんなものかも、全てが未定及び未知の状態である。

既成事実さえ作ってしまえば何とかなるだろう、という甘い考えのもと、気が付けば、役員会議の正式な決定が無いまま、独断で話を進めてしまっていた。

全ては見切り発車だったのである。


その9:内部監査員講習に申し込む

いつの間にか気が付けば2002年も3月に入っていた。

ところで、参考資料等によれば、ISO9001では内部監査を実施しなければならず、その為には研修機関で実施する講習を受ける必要がある、とある。

コンサルタントを雇って社内で実施するか、社外の講習に参加するか、判断に悩んだが、予算が無い事とコンサルタント選択基準が明確でない為、とりあえず社外講習に参加しようと考えた。

できるだけ安く取得活動をする、と言う事が大前提であったので、インターネットで受講費用の安いところを検索した結果、T社が2日間30,000円/人で4/9〜10に実施する、というのを見つけた。

ある程度ISO9001に関しての知識を有する者、という参加資格であったが、とりあえずどんな雰囲気なのか行ってみよう、という事で、経理の許可をもらって私が行く事にした。


その10:強引にも取得活動宣言する

工事部内の定例会議では、少しずつ参考資料に従っての勉強会を実施するようになった。が、私を含めてISO9001に関しては知識の無い者ばかりである。内容の解釈はもちろん、どういったものかを理解するだけでも大変だった。

当然、現場サイドからも困惑の声があり、それよりは仕事が優先ではないか、との意見も出た。

社長や総務部も含め、こんな現状で取得ができるのか、またコンサルタントに依頼したらどのくらいの費用と時間が必要になるのか、見当もつかない。

それでも前向きに経理担当を説得し、予算次第では何とかする、という口約束を取付けた。

そして4月に入り、新年度という事もあって、社内で公式に(というわけでもないが)取得活動に入る宣言をした(カタチにした)のである。

これから苦難の日々が始まる事となるのである。


その11:猛烈な反対に遭う

通常は取得活動宣言(キックオフというらしい)は社長がするものである。

だが我が社の場合、公には社長に言えず、結果的には社長抜きにして活動が始まった。

そしてそれは当然、社長の知るところとなる(もちろん隠しているつもりは無かったが)。

何しろ、高度成長期やバブル期の勢いに乗って業績を伸ばしてきた経営者であるから、業績好調のときはお構いなしに何でも来いだが、業績不振ではどんなものでもダメなのだ。

で、社長の反応は、当然のように大反対である。

この業績が悪化しているときに費用と手間をかけてまで取得する必要があるのか、他の業者が取っているわけでもないのに我が社が取る必要はあるのか、等とあらかた予想していた反論をまくし立てられた。


その12:全責任を賭けて…

私ももちろん我が社の現況は十分承知している。まして現場を仕切っている立場上、社長よりは情勢を把握していると自負しているのだ。

ISO9001は、近い将来必須となり得る規格であり、我が社の品質レベルをアップし、客観的な評価の向上につながるものである。まして短期間では取得不可能なだけに、私としては何としてでも取得したいのだ。

しかも今は仕事が無くて暇なのである。今なら取得活動に時間を振り向けられるのだ。

目先の仕事を探すか、暇な時に取得活動をするか、社内の大勢意見はもちろん、前者なのである。

社長の先見性への疑問視と、会社の現状を嘆いてみても始まらない。

全責任は私が取る、と言う事にして、社長の賛同が得られないまま、我が社の取得活動はスタートした。

ある程度は覚悟していたが、その後、さらなる困難な道のりが続く事となる。


その13:内部監査員講習に向かう

社内事情はともかくとして、内部監査員の講習に参加しなくてはならない。

できるだけ社内の業務に負担にならぬよう、私一人で進めるつもりで参加したのである。

費用が安いのを理由に選択した、T社主催の内部監査員養成セミナーに参加すべく、上越新幹線に乗り東京に向かった。

ちなみに、このT社にはその後もお世話になる事になる。

そのセミナーが価値のあるものかどうか不安であるし、良いのか悪いのかも判断材料が無いのでサッパリわからない。それこそ、妥当性確認のできないまま、T社に着いたのだった。

そして千代田区にあるT社セミナールームにおいて2日間にわたる講習が開催された。が、その内容は、予想をはるかに裏切るものだった。


その14:内部監査員講習に参加したが…

受講費用が安いのであまり内容は期待していなかったが、参加してみて痛感したのは、ISO9001の奥の深さであった。まさに、目から鱗、である。(お恥ずかしい話ではあるが、それまでは要求事項についてはさっぱり知らなかったのである。書店等で要求事項の一部を見た事はあるのだが、あまりにも抽象的な表現ばかりで皆目わからなかったのだ。)

そして内部監査員は自らの監査ができない事を知った。私の業務比率が大きい事を考えると内部監査員は私一人ではダメという事になる。

それ以上に認識不足だったのは、品質マネジメントシステムには管理責任者という総責任者が必要である事だ。これを私が務めるとすると内部監査を兼任できそうも無く、内部監査には他に人員が必要だと感じた。つまり自分一人でシステムの運営をこなすという安易な考えは吹き飛んでしまったのだ。


その15:理解は深まったが…

2日間30,000円のセミナーで、かなりの知識が得られた。これは安い買い物(?)である。但し、理解した分、頭の痛い課題も現実化し問題山積みとなった。

ISO9001の要求事項というのは簡単に言えば、当たり前の事をちゃんとやる、に尽きる。だが、実行しているかと言うと、これはなかなか難しい。

このシステムを導入すれば、当たり前の事をやってない人間からかなりの反発が起きる事が予想された。現実の仕事が優先か、理想のシステムが優先か、それとも共存できるのか、初めての事で不安だらけだった。

コンサルタントを雇うかどうかについては、業績悪化で予算がほとんど無い事、コンサルに左右される怖れがある事、この状態で短期間では無理とコンサルに言われかねない事、などから、結局独自で取得活動を行う事に決定せざるを得なかった(私の独断である)。つまりコンサル無し、である。これも冷静に考えれば無謀な判断だったかもしれない。

取得活動にあたっては、かなりの困難が予想されたが、その後遭遇する困難は想像を絶するものとはまだ思ってもみなかったのである。


その16:審査登録機関を選定する

自分なりに調べてはみたものの判断基準が測りかねるのが審査登録機関の選定である。

審査登録機関の選択が全てを決定する、と言っても過言では無いだろうが、それはつまり、とても責任重大な決断である。

選択肢として、財団法人日本適合性認定協会(JAB)に限定しても、JAB認定のISO9001審査登録機関のうち分類番号28「建設」では30余機関も存在する。その中からどの審査登録機関を選べばいいのか、迷っているうちに時間は過ぎていく。

考えていても答えは出ないので、いくつか適当と思われる登録機関に資料請求と見積依頼を出す事にした。

インターネットを通じて打診したところ、見積が送付されてきたのは結局、計3機関しか無かった。

3つに絞ってはみたが、やはり答えは出ない。割と知名度があるが提示金額が高いところ、聞いた事も無いが提示金額が安いところ、どちらもそこそこのところ、と三者三様であったのだ。

3機関とも所在地が東京だったので、私は直接上京して訪問してみようと考えた。そこでそれぞれにコンタクトをとったところ、こちらへ営業が説明に伺う、と言うところが1軒あった。どうせ上京するので不要と思ったが、無償で訪問する、との事だったので即決した。ちなみに、そこが一番安い見積金額を提示した審査登録機関、A社だったのである。


その17:審査登録機関の営業が来る@

参考資料の一部には、審査登録機関は金額で選んではいけない、とある。その為、審査登録機関の選定には悩んだが、無い袖は振れないわけで、私は一番安いところにせざるを得ないだろうと妥協し始めていた。会社としては、検討の為に上京する費用さえ惜しい、という訳だ。

それにしても、A社など聞いた事も無い審査登録機関である。調べてみたがまだ認証登録の実績は少ないようだ。しかも比較検討した他機関は財団法人や社団法人であるが、A社は営利団体である株式会社なのである。フェアでは無いのではないか、難癖つけて追加料金を請求されるのではないか、などとまるでボッタクリ業者かもしれないような不安が頭を過ぎる。

何はともあれ、2002年5月中旬にA社の営業担当者が来社する事になった。

ところで、我が社は交通の便が悪いところに位置している。いくら無償であっても我が社まで直接、公共交通機関を使って来てください、とは言えないので越後湯沢駅まで送迎する事にした。私が自ら送迎して、コミュニケーションを図るつもりであった。

そして当日、越後湯沢駅の新幹線改札口前で到着時刻に合わせて待っていたが、乗降客の集団が過ぎ去ってもそれらしい人は現れない。

しばらくしてやっと私の前に現れたのは、一抹の不安を感じさせるような人物だったのである。


その18:審査登録機関の営業が来るA

やってきたのはA社営業担当のF氏である。

改札口を間違えてローカル線側に出てしまったらしい。

電話で何度かやり取りはしていたが、予想以上に頼りなさそうな人である。しかもどちらかといえば口下手で押しが弱い印象であった。(大変失礼な記述をお許しくださいませ)

ところで、人間というヤツは第一印象(特に外見)で左右される場合が多く、今回も例外では無い。

ただし、私は基本的に口の上手い人は嫌いである。口下手でも誠実さが感じられる人の方が好感を持てるのである。

F氏はまさにそうであった。送迎の車中及び当社内で様々なお話をしていただき大変参考になった。

既にA社しか選択の余地は無いだろうと意を決しつつあったが、今回のF氏訪問でほぼ決定的となったのだ。

だが、もしもF氏が営業上手で口が達者であったなら、我が社の運命は大きく変わっていたに違いない。

(余談だが、この記事をご覧になり、もし認証登録申請の為にA社とコンタクトを取りたいとお思いになられる会社があるなら、是非F氏をご指名願いたい。)


その19:審査登録機関は決定したが…

我が社の予定として、7月から仮運用、8月から正式運用を開始する事とした。

そして正式にA社と契約を交わし、ISO9001登録申請をする事となった。2002年も既に6月である。固い決意をしてから早くも半年が経過しようとしていた。

審査登録機関をA社に決めてしまった事が、吉と出るか、凶と出るか、それはやってみないとわからない。比較し評価するものは無いのである。

そして今後は、A社の審査スケジュールによって進めなければならない。だが現状は、肝心なシステムができていないのに等しかった。

第一、   品質マニュアルも満足にできていないのだ。社内の組織再編成も必要である。

とりあえず、マニュアル審査の期限までに品質マニュアル及び関連規定を完成させなければならない。手をつけていた作業ではあるが、もう時間は無いのである。できなかった、では先に延びていくだけなのだ。

審査登録機関にも不安を感じるが、それよりも我が社の実情が心配、である。本当にコンサル無しでできるのか、全てを管理し切れるのか、私の不安は増すばかりであった。

しかも、他に頼る人はいない、のである。


その20:本格的に品質マニュアル作成に着手する

審査登録機関の契約手続と並行して、本格的にマニュアル作成作業に取り掛かる事となった。もちろん作成メンバーは私だけ、である。

作成の手本は、品質マニュアル作成の参考書一冊のみ。それをベースに、ISO9001要求事項やISO9000用語の定義を参考にしながら、自社の実情に合わせて作っていく地道な作業である。

参考書類の記述には、下位の文書から作成する事、とある。ところが、我が社の場合(というか私の場合)は、品質マニュアルと下位文書の作成が同時進行する結果となってしまった。

その理由として、一人で作成している為下位文書から順序良く作成し確認している時間が無い事、マニュアル審査までに品質マニュアルを完成させなければならない事、作成者が飽きっぽいので集中力を維持する為に同時に整合性を取りながら作成する必要がある事、等があった。

作っては見直し、の繰り返しをひたすら続ける毎日であったが、もっと大変な事は後でやってくる、事になるのである。


その21:もう1名を内部監査員講習に参加させる』はこちらです